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人間の絆 

人間の絆(上)
著者:サマセット・モーム
発行:岩波文庫(2001/10)

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あらすじ
モームの傑作として広く認められているこの作品は、幼い時分に親を失い叔父に育てられた彼自身の自伝的な教養小説である。モームの"どもり"は、主人公フィリップの足の障害(内反尖足)に置き換えられている。話は主人公のドイツ、フランスへの旅行、そして知性と感性を磨く場となったロンドンを舞台にして展開してゆく。
とにかく長い!
のに、読み始めたら止められない止まらない。

作者ウィリアム・サマセット・モームの半自伝小説なんですが、主人公であるフィリップは彼の作品中によく出てくるような知識階級(ハイブラウ)のインテリ。
しかしその彼がいざ恋をしたとたんに、吐き気がこみ上げてくるような精神的ストーカー(或いは自虐癖のある偏執狂)へと一変する。
恋の相手のミルドレットは大した悪女でどうしようもない女なんですが、フィリップのような執着体質に惚れられたのじゃなかったら、そんなに彼女も悪くはないと思えてしまう。
でも、他人の人生だから(あまりに冷静にまざまざと見せ付けられてしまうために)気持ち悪くもなってしまうわけですが、それだけリアルに徹底して人間心理を描き出してあるのだと思います。
恋をするなりフィリップはそれまで大切にしていた人々の気持ちすら平気で踏みにじってしまうわけですが、本気で恋に現を抜かしている間って、誰だって彼のように自分勝手な言動に終始してしまうと思いますもん。

ラストは批評でよく言われているように(モームの作品にしては)ちょいとツメが甘いような気もしますが、とにかく女性の描かれ方が絶品です。
んで、すこし面白かったのが、以前にモームが世界十大作家(だっけ?)に挙げているジェーン・オースティン。
その作品とも共通のファニー・プライスとミセス・ベネットの扱われ方があまりに皮肉で痛烈で苦笑してしまった。
(モームにはそんな含みは考えてなかった……なんてことはないと思ってしまうのですが…どうでしょう?)

(写真がなかったので、上巻だけ冒頭に載せてありますが、私が読んだのは全集だったので、)総勢26文字×23行×2段組で682ページもあるんですが、また折を見て最初から読み返したいと思ってしまうほどに面白い一冊でありました。

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月と六ペンス 

月と六ペンス
著者:サマセット・モーム(行方昭夫)
発行:岩波文庫(2005/07)

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あらすじ
作家である私は、ストリックランド夫人のパーティーに招かれたことからチャールズ・ストリックランドと知り合う。ストリックランドはイギリスの証券会社で働いていたが、ある日突然家族を残して消えてしまう。私は夫人に頼まれ、ストリックランドがいるというパリへ向う。私がストリックランドのもとへ向かうと、駆け落ちしたといわれてた女性の姿はなく、一人で貧しい生活を送っていた。話を聞くと絵を描くために生活を捨てたという。私は彼を批判するが、彼はそれをものともしない。夫人は私からそのことを聞くと悲しんだが、やがてタイピストの仕事を始めて自立していった。

それから5年後、私はパリで暮らしていた。以前にローマで知り合った三流画家のダーク・ストルーヴのもとを訪れ、彼がストリックランドの才能に惚れ込んでいることを知る。ストルーヴに連れられストリックランドと再会するが、彼は相変らず貧しい暮らしをしていた。それから私は何度かストリックランドと会ったが、その後絶縁状態になっていた。クリスマスを前にしたある日、ストルーヴとともにストリックランドのアトリエを訪れると、彼は重病を患っていた。ストルーヴが彼を自分の家に引き取ろうとすると、妻のブランチは強く反対した。夫に説得されてストリックランドの看病をするうちにブランチは彼に好意を寄せるようになり、ついには夫を棄ててストリックランドに付き添うが、愛情を受け入れてもらえなかったために服毒自殺してしまう。妻の死を知ったストルーヴは、ストリックランドへの敬意を失うことなく、故郷のオランダへと帰って行った。私はストリックランドに会って彼を再び批判した。その後私が彼と再会することはなかった。

ストリックランドの死後、私は別の用事でタヒチを訪れていた。そこで彼と一緒に仕事をしていたというニコルズ船長に出会い、彼が船乗りの仕事をしていた時のことを聞く。貿易商のコーエンはストリックランドを自分の農場で働かせていたことを話す。宿屋のティアレは彼にアタという妻を斡旋したことを話した。彼の家に泊まったことのあるブリュノ船長は、ストリックランドの家の様子を話した。医師のクートラはストリックランドがハンセン病に感染した晩年のことを語り、彼の遺作は遺言によって燃やされたとしている。私はクートラ医師の所有するストリックランドの果物絵を見て恐ろしさを感じていた。

ロンドンに帰った私は彼がどのような生涯を過ごしたのかを伝えようとストリックランド夫人に再会する。タヒチでのストリックランドのことを話し終えた私の頭には、彼がアタとの間に儲けた息子が、大海原で船を操っている姿が浮かんでいた。
ウィキペディア「月と六ペンス」より
以前に一度読んだはずなんですが、内容を思い出せなかったので再読。
「人間の鎖」を読んだ直後だっただけに余計に愉しめました。
(内容的な共通点はないのですが、登場人物の設定が似ているかな? (ヘイウォード≒ディルク・ストルーフェとか)

ゴーギャンの一生に暗示を受けて書かれた一作なんですが、モデルにして描かれたストリクランドがあまりに強烈な個性の持ち主だけに、むしろ読後はゴーギャンの一生を調べてしまいたくなってしまいます。
(ゴッホとの関連もあり、以前から興味があるのですよね)
加えて、文中に大量の作家や画家の名前が出てくるのですが、逐一それがどんな作品を意味するのか調べ尽くしてしまいたい。それがわかって初めて描かれている世界が理解できるように思えます。(それがわからなくても充分に面白い作品なんですが)

ストリクランドは本当に自分勝手で最低の男なんだけれども(本当にモームはこういう人間を書くのが上手い)、彼がもしも人生の初めからタヒチで生活を始めていたら、果てしなく幸福な一生を送れただろうに…と思うだに、描かれている彼の生涯全般が切ない限りであります。

あと「高慢と偏見」を読んで以来ずっと18~19世紀初頭の女性の立場の描かれ方に疑問と憤懣を抱えていたわけですが、この本を読んでなんとなく「そういうものなのか」と素直に納得できてしまいました。
(どうしてこんなに女性心理まで巧みに描ききってしまうのだろうか? 不思議。)

なんとなく、真夏の沖縄の木陰とか、天気の良い森林公園で、ゆっくりくつろぎながら読み返したい一冊ですね。
(できれば今度は中野好夫さんの訳で読んでみたいなァ~)

大佐の奥方・母親 

大佐の奥方・母親
著者:サマセット・モーム
発行:1951

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モームの戦後の短編集「環境の産物(動物)」から選ばれた5篇。
このときモーム73歳。
本当に、小説を書くために生まれてきた人の如く、ますますもって筆致の巧みが冴えまくりです。

【大佐の奥方】
奥さんが詩集を出してヒットして、主人である大佐はある頃から「あの有名な本を書いた作者のご主人」呼ばわりされるだけでも癪に障るのに、よりにもよってその詩集の内容から奥さんの浮気疑惑が浮上してしまう。
けど、あくまで疑惑であって証拠のひとつも存在しないだけに奥さんに詰め寄ることもできなくて、仕方なく友人相手に憤懣を爆破させる旦那さん。
しかし、オチで彼の言う言葉が非常に抜け目がなくてシャレているのであります。
(笑った。)

【根なし草】
マラリアに犯されてしまった白人が、ボルネオで出会った白人一家のところでちょっと怖い思いをする話。
今のご時勢だとぜったい通用しない設定だと思われますが、でも登場人物を一昔前の日本人に置き換えても充分通用するのではないかしら?
旦那からの締め付けにより精神症を発症してしまう奥さんだが、もしも旦那さんが今でも奥さんを想っているのだとしたら、むしろ悪いのは奥さんのほうだということになる。
たまらなく切ない話だ。

【幸福な夫婦】
モームが描くところ代表的な知的階級のインテリ。
ロンドン高等刑事裁判所の判事・ランドンを最初は「嫌なヤツ」だと大嫌いになり、最後は「大好き!」と高感度のジェットコースター気分を味わえてしまう一作。
こーゆークセのある人物が大好きだ。

【対面】
スペインの劇作家カルデロン著「名誉を重んずる医者(エル・メディコ・デ・ス・ホンラ)」の内容を小出しに取り上げながら進展してゆく物語。
むしろ読後はその話を読みたくなってしまいました。
スペインの季節と空気と日差しと風景がとても美しい文章でリアルに書き連ねてあります。
(現地に行ったことがなくてもなんとなく匂いまで感じられてしまうぐらい)

【母親】
この話もスペインが舞台です。
息子を溺愛している母親がメインの登場人物なんですが、読後に爽快感を味わうか、どっぷりイヤ~な気分を味わうかはハッキリ読者の体験次第。
最後の一行の母親の捨て台詞を「イカス!」とは思いましたが、それより以上にゾッとしました。
(でもたいへん興味深い一作でありました)

サナトリウム・五十女 

サナトリウム・五十女
著者:サマセット・モーム
発行1951

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モームの戦後の短編集「環境の産物(動物)」から選ばれた5篇。
英宝社刊の「凧・冬の船旅」でコンプリートらしいので、是非ともその一冊も集めたい。

【仮称と真実】
「さるイギリスの大学で、フランス文学を講じているある教授から聞いた話」をとある自分が一人称で語ってゆく話。
しかし、その設定に懲りすぎていて、肝心の内容がちょいと不鮮明になってしまった感があり。
その設定をなくして単に「政界人が若い情人を囲う話」だったとしたら、もっと普通に愉しめただろうと思う。

【五十女】
持参金の少ない女性と、頼りのない若者と、その実父を交えた三角関係。
それを五十路を迎えた女性と再会したところより顧みる。
松本清張が書きそうなエピソードなんですが、オチがいかにもモームらしい。
息を詰めなくても読めるので、むしろこれくらいのドロドロ加減が好みです。

【思いがけぬ出来事】
設定は「大佐の奥方」に少し似ているような。
しかし、読後の感想はまったく違います。
モームの書く恋愛は非常に切ない。自分の全てを投げ打って、まさに全力で相手を恋する。
けど、相手は実に理知的に、現実的にそれに対処する。
第三者から見ればある意味仕方ないやり方なのかもしれないけど、あまりに現実的過ぎて残酷なだけに、今現在切ない恋の渦中にいる人は、なるべくモームは読んではいけないと思う。
(やりきれなさに胸がつぶれて、涙が止まらなくなってしまいますよ。たぶん)
―――と、思わずうっかり昔した自分の恋に切ない想いを巡らせてしまった一作。

【ロマンチックな令嬢】
身分違いの恋に陥った二人、その二人の命運を握る伯爵夫人が下したある決断。
かなり要約すると「ロミオとジュリエット」みたいな設定ですかな。
(公爵夫人の娘がジュリエット、伯爵夫人の御者の青年がロミオ(かなり無理矢理)
むしろドロドロしているのは伯爵夫人と公爵夫人のほうなんですが、なんとなく登場人物のイメージは森薫さんの「エマ」を彷彿としてしまいました。
設定といい、オチといい、よくよくありがちな話なんですが、ものっそい読後が爽快な一作でありました。

【グラスゴウ生まれの男】
正直勘弁して欲しい。
語り部が「白状しよう、その晩は僕もぐっすりとは眠れなかったと」というので終わるのですが、読んでいるこっちまでトイレに一人いで行けなくなってしまうホラー。
(深夜に流れるホラー映画のCMでもダメなので余計に)
読後は「コワイ~~~、もうメッチャ怖い~~~~」と笑いながら無理矢理気分を盛り上げる必要に駆られました。
(今でもマジでこの一作だけホッチキス止めしてやりたくなります…(怖すぎる)

【サナトリウム】
実体験として大戦中、ロシアに諜報部員として派遣されていた以後に胸を悪くしてサナトリウムの世話になっていたことのあるモーム。
それだけに病院の雰囲気と空気が非常にリアル。
けれども、読後のふんわり感はなんとも果てしなく癒されました。
(グラスゴウ~を読んだ直後だから余計かもしれないけど)

「結婚しなければ2~3年、結婚すれば3ヶ月」と余命を告げられるのに、それでも喜んで結婚する決意を固める二人。
片や、自分だけ病気を患っていることで、それまで愛し続けていた細君を屈辱的な言動で傷つけてしまう男。
むしろ後者の気持ちに感情移入してしまいましたが、いずれにせよ「こんなふうな恋愛ができたらなァ~」と羨ましくなってしまう一作です。

それにつけても、七十路を超えてもなお、こーゆーロマンティシストでいられたモームの不思議。
「人間の鎖」が41歳の時の作品なので、その倍は生きた後に書かれた「回想」を読んだらその謎の部分も理解できるのかな?
(できれば近い将来、モーム作品コンプリートを目指したいです)