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永遠の祝祭 (番外Ⅴ) ある夜の出来事。 

もはや開き直ってお送りしてしまう、
気分転換その2。
(*´ェ`*)


※ 「永遠の祝祭」番外編です。
※ ロロとナナリーが出てきますが、ギアス本編に出てくる二人ではありません。
 (ルルシー夫婦の子供です。)
※ お約束ネタなので、そういうのが駄目な人は全力でスルー推奨。


それでも良ければどうぞ~♪


携帯やmacな方はコチラから。

それ以外の方は、下からどうぞ。




■ 永遠の祝祭(番外Ⅴ)ある夜の出来事



 草木も寝静まる丑三つ時。
 熟睡していたロロは、ふとした拍子に隣からすすり泣く声が聞こえているのに気づいた。
 それでもまだ始めのうちは、夢うつつで聞き逃していられたのだが、

「……ロロ……おにいちゃぁあん……」

 涙混じりに名前を呼ばれながら、明らかに汗ばんでいるひたいを押し付けられ、さすがに呑気に眠っている場合ではないと、五歳児なりに気づいて慌てて飛び起きた。
「ど、どうしたの、ナナリー?」
 驚くあまり、上ずった声音で訊ねるが、当のナナリーはとっさに返事が出来ない様子で。
 小さく身体を丸めたまま、顔中を汗でぐっしょり濡らしていた。
 ロロは、とっさに両親の顔を思い浮かべて、ベッドから飛び降りた。
 だが、ナナリーがロロの着ているパジャマの裾をしっかり握り締めて離さなかったものだから、思い切り後ろにつんのめって、一瞬本気で息が詰まった。
「……ナ、ナナリー…手! 離してっ」
「……ひとりはやだ……こわい……」
 しかしナナリーは、しくしく涙を流しながら、消え入りそうな声音で自分の窮状を訴えるばかりで。
 ロロは、自分のほうからナナリーに近づくことで窮地を脱すると、やさしくナナリーの手を掴んで外させた。
「おかあさんを呼んできてあげるから。そしたら、すぐに直してくれるから。すこしだけ待ってて」
 ハッハッと短く苦しげに息を喘がせながら、ボロボロと涙をこぼしているナナリーは、声にならない囁きで何かを呟いた。
「うん、なに?」
 ロロはとっさの判断で、ナナリーの口元に顔を寄せると、小さな囁き声を辛うじて聞き取った。
「……30秒……で…かえってきて」
「わかった!」
 答えて、まさしく脱兎の如くに駆け出した。
 家族四人が住むには充分すぎるほどに広い部屋だったが、それでも土地の広大さに比べたら、なんとも小さな家だった。
 台風なぞに見舞われてしまうと、一瞬で家ごとどこかに吹き飛ばされてしまいそうなほどに。
 だから日中は両親の寝室まで、ものの30秒もあれば余裕で歩いていけるはずだが、ロロは深夜に廊下を一人で歩くのが怖いのだ。
 けれども今は、そんな弱音を吐いている場合ではなかった。
 年中決して止むことの無い風の音。
 ピューピューと窓の外を吹きゆくそれにともなって、ガタガタと軋みを上げている窓ガラスが時折ガタンと大きく揺れるたび、思わず飛び上がってしまいそうになるけれど。
 三歳の頃、あまりの怖さに、トイレに向かう途中で間に合わずに漏らしてしまった経験が、今でも鮮明に思い出されてしまうけれども、今は最愛の妹ナナリーが苦しんでいるのだから! と、今にも足がすくんでしまいそうになる自分に必死で言い聞かせて、なんとか無事に両親の寝室のドアの前まで辿り着くことが叶った。
 思わずホッと安堵の息を吐きながら、何も考えずにドアノブをグッと下に押し下げた。

 ――ガチャリ。

 しかし予想に反して、部屋のドアには鍵が掛かっていたのだ。
 一瞬で、軽いパニック状態に陥ってしまったロロは、小さな拳を硬く握って、ドンドンと思い切り何度もドアを打ち鳴らした。

「お、おとうさんっ! おかあさん! 開けてっ、ナナリーがっっ!」

 言っているうちにも、得体の知れない恐怖がこみ上げてきて。
 今にも泣いてしまいそうな気分で、ドンドンと必死でドアを打ち鳴らし続けた。
 ガタン、ガタンと揺れ続ける窓の音。
 ピュー、ピューと吹き続ける風の音。
 あの窓の向こう側には、夜中に歩き回る悪い子供を捕まえて、頭からガブリと喰らいついてしまう口の大きな怪物が待ち構えているのだ。
 興味本位で、友達の貸してくれた怖い本なんか読むんじゃなかったと、ロロは心底後悔しながら、最後は「たすけてっ!」と別な意味で悲鳴まじりに大きく声を張り上げた。
 時間にすれば、ものの数秒だっただろう。
 ややあって、ガチャリと開いたドアの向こうから、姿を現したのは父親だった。
 見慣れた、いつものパジャマ姿。
 だが、なぜだか上衣は、ボタンがふたつしか留められていなかった。
 普段からきっちりした服装の父親を見慣れているだけに、ロロは激しく違和感を覚えたが、とにかく今は気持ちが急くままに父親の手を握って揺さぶった。
「ナ、ナナリーがっ、大変なのっ! お、おかあさんはっ?」
 言いながら、ロロは父親の背後を覗いたが、廊下から零れる明かりで辛うじて視界の開けた先で、ベッドの上で小さく背中を丸めている母親は、なんだか妙に苦しげにひくひくと肩を揺らして泣いていた。

 ――えっ…どうして泣いてるの?

 驚きに、目をまん丸に見開きながら、思わず部屋の中に飛び込みかけたロロをさりげなく遮って、父親は自分の背中でバタンとドアを閉じてしまった。
 ロロは一瞬だけ、ナナリーのことを忘れてしまうと、不安そうに父親の顔を見上げた。
「…お、おかあさんも…どこか痛いの?」
 思わずそう訊ねてしまったのは、母親の背中がどこかしら苦痛を訴えているナナリーの姿と酷似していたせいだ。
 父親は、なぜだか目元を真っ赤に染めて、気まずそうに視線を落とすと、「ああ」と低く掠れた声で答えた。
「心配しなくていい。…その、もう薬を飲ませたからな」
 それより今はナナリーのほうが心配だろう? と口早に続けられ、ようやく本来の目的を思い出したロロは、父親の手を強く握って、「はやく! はやく!」と我先に子供部屋へと急いだ。



□ □ □




「それで? ナナリーは無事だったのだろうな?」

 小一時間ほどで夫婦の寝室に戻ったルルーシュは、物音を立てぬように細心の注意を払ってドアを薄く開いた。
 その隙間から、まるで脅しつけるようにして、聞き慣れた嫁の怒り声で啖呵を切られて、ガックリ肩を落としたルルーシュは、ハアとあきらめの息を吐き出した。

 ――これは…怒っているよな? やっぱり…。

 災難から逃れたい一心で、思わずそのままバタンとドアを閉じてしまいたい衝動に駆られたが。
 そんなことをしてしまえば、またいつものように容赦なく、尻尾を踏まれた猫みたいに怒り狂った嫁と修羅場になるのは目に見えていた。
 仕方なく、部屋の中に歩みを進めると、後ろ手に鍵を閉めるのも忘れずに、憮然とした表情でまっすぐベッドに向かった。
 なんとなく嘆息まじりにベッドの端に腰を下ろしたら、無言でバチンッと後頭部を(はた)かれてしまったが。
 この程度の報復で済めば幸いと甘んじて受け止めると、何も言わずに身体を反転させて、背後からC.C.の身体を抱きしめた。
 子供を産んで以来、ようやく自主的に身に着けるようになったルルーシュと揃いのパジャマ姿で、同じく憮然とした目つきで睨んできたC.C.は、割合素直に背中をルルーシュの胸元に預けてきた。
 ルルーシュは、内心でホッと息を吐きながら、見た目ばかりは憮然と顔を顰めると、慣れた仕草でC.C.の肩口を抱きしめた。
「…ただの腹痛だ。――どうやらアイツ、夜中に盗み食いをするクセがあるみたいだぞ?」
 ロロの話では、翌朝双子に持たせるつもりで作って寝かせておいたロールケーキを、ひとりで丸々一本平らげてしまったそうだから、寝ている間に消化の追いつかなかった胃が驚いてしまったのだろう。
 鎮痛効果と、消化吸収を助けるハーブを調合して飲ませてやり、症状が落ち着くまで双子のベッドで添い寝してやっているうちに、いつしかロロも安心した表情で眠っていた。
 そう話を聞かせてやると、C.C.は大して驚きもしないでクスッと軽く鼻を鳴らした。
「ああ、知ってるぞ? ストレスが溜まり始めると、どうしても我慢できなくなるみたいだな」
「――ストレスだと? あの歳でか?」
 驚いたルルーシュが思わず素っ頓狂な声を上げると、軽蔑の眼差しを注いできたC.C.が、「相変わらず、おまえは鈍感だなァ」とあきれたように呟いた。
「あの歳だからさ。言いたいことは無数にあるのに、ボキャブラリーの貧困さが発言に制約を設けてしまう。自分が納得するまで悩み始めると止まらなくなるのは、案外おまえ譲りだぞ?」
 たしかに思い当たる節は無数にあるのだが、そんなふうに冷静に切り返されてしまうと、正直言って、面白くない。
 ルルーシュは、拗ねたような気分で、ぶっきらぼうにやり返す。
「文句を言い始めると、容赦なく相手を打ちのめすのは、むしろおまえ譲りだろう?」
「詰めが甘いくせに、やけに頭の回転が速いのは、どう考えてもおまえ譲りだ」
「よく言う。アイツの口の悪さで、泣いてる男がどれだけ居ると思うんだ?」
「身の程もわきまえずに適わぬ敵に歯向かって、泣かされるような真似をしてくる男のほうが悪い。相手のためにも、良い人生教訓になってるじゃないか」
「どうだかな。そのたび相手の親から厭味を聞かされる、俺の身にもなってみろ」
「ハッ、そんなの、安い相談じゃないか。それとも、ルルーシュ? まさか、ナナリーに、『黙って泣かされて来い』とでも言うつもりか?」
「馬鹿か、おまえは。そんなものは論外に決まってる」
「ほら見ろ。どうせおまえのことだから、眼を三角にして怒り狂って、相手の親が三日三晩眠れなくなるような反撃を平気でやりかねないだろう? そんな恥ずかしい真似をされるくらいなら、私はむしろナナリーを応援してやりたい気分さ」
「馬鹿を言うな。俺はそこまで非常識じゃない」
「さァ、それはどうかな?」
 しばらくの間、その調子で睨み合いが続いたが、事は子供に関わる問題であることを思い出し、ルルーシュが話を戻した。
「それはともかくだ。――盗み食いの件、気づいていたなら、どうして先に注意してやらなかったんだ?」
「注意してやったさ、そのうち痛い目を見ても知らないぞ? とな」
 そしたら案の定、痛い目を見ただけの話じゃないか。
 そう言って、辛辣に鼻を鳴らすC.C.を、ルルーシュは「冷たい奴だな」となじった。
「一度で聞かないようなら、理解するまで何度でも言って聞かせろ、相手はまだ五歳なんだぞ? 過食症がトラウマにでもなったら、どうするつもりだ?」
「大げさな奴だなァ。だいたい、おまえが知らないだけで、もうこれで八度目だぞ? 五歳児とはいえ、ナナリーに学習能力が無さ過ぎるのさ」
「八度目? ――そんなにか?」
 焦ったようにそう言った。
 その表情を横目に眺めていたC.C.は、露骨にうんざりした顔つきで、ハアと大きく嘆息して見せた。
「言っておくがな、ルルーシュ? この程度で、医者の世話になるつもりなら、私は全力で阻止するからな」
「どうしてだ?」
 軽くムキになって訊ね返すと、フンッと辛辣に鼻を鳴らしたC.C.は、
「この週末はヒマか?」
 と、唐突に質問を投げてきた。
 ルルーシュは、一瞬言葉に詰まったが、即座に頭の中のスケジュール帳に目を通すと、素直に「ああ」と答える。
 本当は、仕事の付き合いで終日予定が埋まっていたのだが、そんなものは、前倒しで片付けてしまえば済む話だ。
 C.C.は、なぜだかフイッと視線を逸らしてしまうと、
「だったら、ナナリーを連れて、一日外で遊んで来い」
 と続けた。
「最近おまえ仕事ばかりに夢中で、ロクに遊んでやってないだろう? だから半分は、おまえに構って欲しくてワザとやっているんだよ」
 そっけなく突き放すように言われて、そういえば昔、ナナリーにも同じ事を言われたことがあったなと、ルルーシュは懐かしい記憶にすこしだけ切ない気分を味わった。
 ゼロ・レクイエムから、既に十年。
 つい先日、双子が五歳の誕生日を迎えるのと同時に、ブリタニア本国で25回目の誕生日を迎えたナナリーは、歳を経るごとに母親譲りの美貌に磨きをかけていて。
 片時も離れることなく、側近を務めているゼロとの恋仲が次第に囁かれ、「ご成婚は秒読みか?」などと、こぞって一般大衆紙は取り上げているのだが、なんとなくその可能性は低いようにルルーシュは感じている。
 もちろん本心では、『一緒になればいい』と思っている。
 だが、なんとなく以前のルルーシュとC.C.の関係のように、一緒に居るだけで得られる満足以上の幸福を求めないような感じがするからだ。
 一緒に居るだけで、ほかの誰といるよりも安心する。
 けれども、その安心感を上回るほどに、胸を熱く焼き焦がすような感情は存在しない。
 たがいに穏やかな毎日を共有して、今でもたがいの背中に、ルルーシュの存在を透かして見ている。
 その状態から一歩前に踏み出さないかぎり、あの二人の性格を考えると、ルルーシュたち以上に変化を求めるのは難しいような気がしている。
 ルルーシュとC.C.が今の状態に発展しているのは、ひとえにゼロ・レクイエムで物理的にも、精神的にも別れを経験しているからだ。

 ――C.C.が、本心では俺との別れを、どれだけ我慢していたかも知らずに、な……。

 なんとなく感傷に浸ってしまったルルーシュは、毎日当たり前のように眺めている嫁の素顔を見つめた。
 たちまち「なんだ?」と怪訝そうな顔つきで眉を顰めて見せるので、『こういうのは、俺らしくなかったか』と、すこしばかり自嘲まじりに、ほろ苦い気分でルルーシュは笑った。
「だったら、家族で出かければいいだろう? どうしてナナリーだけなんだ?」
 C.C.は、それはもう憮然とした表情で続けた。
「本当に馬鹿だな、おまえは。ナナリーが、おまえを独占したがっているからに決まっているだろう?」
「ロロはどうする?」
「いい機会だから、たまには私を独占させてやるさ。最近、妙にナナリーに遠慮しているからな」
 その傾向は、今に始まった話ではなく。昔から、乳を吸う順番さえ、ナナリーに譲っていたほどだ。
 たまにはロロに、勢いの良いところを飲ませてやろうと順番を入れ替えると、すぐさま待たされているナナリーが火がついたように泣き始めるので、ロロは遠慮して吸うのを止めてしまうのだ。
 おまえは本当に、よく出来たお兄ちゃんだなァ(どこかの誰かさんとは違って)――と、再三皮肉を言われた記憶まで思い出し、ルルーシュはぶっきらぼうに唇の先を尖らせる。
「なら来週は、俺がロロに独占されてやるから、おまえはナナリーに独占されてろ」
「ふん、言われなくても、私はいつだって、チビたちには独占されてるさ」
 言ってしまってから、いささか不自然にC.C.は口を噤んだ。
 ルルーシュの策に嵌ったことを自覚したのだ。
 ルルーシュは、「へえ?」とこれ見よがしに、たった今気づいたフリを装った。
「そう言えばおまえも、たしか俺を独占し足りないと拗ねているクチだったか?」
 これ以上、馬鹿な戯言に付き合ってられるかと、C.C.はすかさずルルーシュの腕から逃げ出した。
 その行動を読んでいたルルーシュは、さりげなく身体の前に回していた両腕で、C.C.の華奢な身体を羽交い絞めにした。
「離せっ」と文句を言うのをあっさり無視すると、緑の髪を片手で梳きながら、夜目にも鮮やかに赤く染まっている目元と耳元にひとつずつ、音を立てない小さなキスを落とした。
 悔しいことに、そんなふうに抱きしめられるのも、キスをされるのも嫌だと思えないものだから、しばらく羞恥に唇を噛んでいたC.C.は、ややあって溜息まじりに抵抗をあきらめた。
「……それで?」
「うん?」
「……ロロには気づかれて無いのだろうな?」
 必死の形相で、夫婦の寝室を訪ねてきたロロを迎えてやるのが遅れてしまったのも道理で、運悪く意地の悪い方法で、さんざんC.C.を泣かせている最中だったのだ。
 幸い真っ最中ではなかったが、終わった直後だっただけに、二人ともとっさに身動きの取れない状態であった。
 その件もあってC.C.は、激しく立腹していたわけだが。
 ルルーシュは、思わずハアと溜息を漏らすと、「大丈夫だ」と続けた。
「アイツは、妙に鈍感なところがあるからな。……いったい誰に似たのかは知らないが」
 少なくとも、迎えに来たのがナナリーだったらと考えると、ルルーシュには正直言って、誤魔化し切れた自信は無い。
 決して早熟なわけではないのだろうが、いつの頃からか、深夜に夫婦の寝室を訪ねる場合には、必ず事前にノックを怠らないのは、ナナリーが自発的に始めた習慣だった。
 C.C.は、赤く染めたままの頬を皮肉に歪めると、「自覚しているようなら安心だよ」と高飛車に憎まれ口を叩いた。
 羞恥が言わせた、可愛い照れ隠しだ。
 それくらい、ルルーシュだって理解している。
 それでも、ムッとしてしまうのだから仕方ない。
 腕の中にC.C.を抱えたまま背後のベッドに倒れ込んだルルーシュは、すばやく上下の位置を入れ替えると、身体の下にC.C.を組み敷いた。
 勝気な上目遣いで睨み付けてくる、C.C.の鼻先の距離から言い返した。
「おまえはそう言って、俺にばっかり責任を押し付けてくれるがな。そもそも、おまえが余計な意地を張らなければ、小一時間も前に済んでいたはずだろう?」
 そもそもの発端は、寝る間に枕の上で交わすのが決まり事になっている『おやすみのキス』を、C.C.が「今夜は嫌だ」と理由も言わずに拒んでくれたのだ。
 そのまま背中を向けて布団を被ってしまうので、「いったい俺が何をしたんだ?」とムキになったルルーシュが訊ねても、むっつり口を噤んだまま何も答えようとしないので、気づいた時には嫌がるC.C.を強引に組み敷いて――
 延々一時間近くも、絶頂の間際まで追いつめては、達する寸前でわざと引き抜いて、体位を変えてしまうという実に意地の悪い方法で、C.C.の口を割らせるために苦心したのだ。
 結局、C.C.は最後まで口を割ろうとしなかったが、素直に口を割るよりも、よっぽど恥ずかしい懇願のセリフをさんざん口走ってしまった記憶まで思い出してしまったものだから、一瞬で火がついたように顔をカッと熱くして、ルルーシュの視線から逃れるために両腕で首筋にギュッとしがみ付いた。
 逃げれば追う男の本能を、十二分に理解した上での行動だったが、それでも羞恥を感じてしまうのは仕方なく。必要以上にギュウギュウと、ルルーシュの首筋を締め上げながら、ぶっきらぼうに言い返した。
「……………だからアレは、おまえが勝手に妙な誤解をするから……」
「俺が誤解をして、どうしておまえが拗ねる必要があるんだ?」
 たちまち優勢を取り戻したルルーシュが冷静に訊ねると、C.C.はむっつり口を噤んで黙り込んでしまった。
 要するに、ナナリーとご同様に、淋しくて拗ねていただけなのだ。

 出会いの当初は共犯者。
 いつしかそれが、表現の困る相手に成長していたC.C.と、ルルーシュが華燭の典をあげたのは、今を去ること九年前の11月20日のことである。
 ちなみに、その日は世間的には『ピザの日』で、ルルーシュが勝手に決めた『C.C.の誕生日』であるのは単なる余談だ。
 必要に迫られて、婚礼に使用したウェディングドレスまで自らデザインしてしまったルルーシュは、後にC.C.の勤めているバイト先で評判を集めてしまったのが原因で、自ら起業する羽目に陥った。
 そのときルルーシュが立ち上げたブライダル・コレクションが『大きな花(グランデ・フィオリ)』である。
 ゼロの衣装や、黒の騎士団の制服などを皮切りに、必要に応じてナイトメアの外装に至るまで以前から細かく指示を出していたルルーシュだったから、元々デザイナーのセンスに恵まれていたのだろう。
 ブランド創設後ただの一度もアイデアの枯渇に悩まされた経験は皆無だったが。唯一の問題は、実際にそれを着る相手のサイズが違う点だった。
「このデザインで、もうあと10センチウェストサイズを広げてみろ。腰周りにゆとりを持たせた、フレアーの効果が完全に破壊されるだろうが?」
 C.C.のサイズで描かれているデザイン画を元に、実際に依頼主と折衷を繰り返しているデザイナーから変更を加えられたデザイン画が、やがてルルーシュの手元に返されてくる。
 最終的にルルーシュが、全体的なデザインを調整し直したところで、縫製の段階以降に回されるわけだが、今回のように、イチからデザインを考え直したほうが早いような場合も少なからずあってしまうのだ。
 こめかみに青筋を立てながら憤るルルーシュの姿を、あきれたように横目で観察しながら、他人事の気楽さで、C.C.が溜息まじりに呟いた。
「だったら、試しに一度、おまえがフレアーに固執するクセを改善すれば良いだろう? 妙なところで、頭の硬い男だな」
 だが、それこそまさに、『大きな花(グランデ・フィオリ)の奇跡』と言わしめた定番のデザインなのである。
 ルルーシュの気持ち的には、それを外すことなど論外だった。
「おまえが着て、映えるデザインでなければ、俺が作る意味が無いだろう?」
 実際に着る相手が誰であろうと、C.C.以外のモデルを想定するなど考えられない。
 どれだけ「仕事だから」と頭では割り切っても、肝心の筆が進まなくなってしまうのだから仕方が無い。
「………実際に着るのは、私ではない」
 丸々一分近くも沈黙を守った後に返された反論に、ルルーシュもたっぷり含みを持たせて反論した。
「――だから?」

 決して妥協を許さないデザイナーの意地が幸いして、元々のデザイン画だけを集めた個展がたびたび開催されるほどに、顧客の幅は、毎年口コミで増える一方で。
 初めのうちは、年に数着限定のプレタクチュールとオーダーレンタルだけの扱いだったのが、次第にそうも言っていられなくなり。最近は、月に数着のペースでデザイン画の締め切りを抱える身になってしまった。
 おかげで子供たちと接する時間が減ってしまったわけだが、今までルルーシュが気にかける必要もなく仕事に専念していられたのは、ひとえにC.C.の内助の功の賜物である。
 だが実際、蓋を開けてみると、そのC.C.自身が拗ねていた。
 どれだけ長く一緒に過ごしていても、たとえ全てのデザインがC.C.のために考案されているのだとしても、実際に着るのはC.C.ではない。別の女だ。

 ――まさかコイツが、ヤキモチを妬いてくれるとはな…。

 一緒に暮らし始めて、10年以上の歳月が経過しているにもかかわらず、いまだに自分のほうからは、甘い言葉のひとつも素直に求めようとしない女。
 その女が、迂闊に見せてしまった素顔の部分に面映さを誘われて、状況も忘れてクスッと肩を揺らしてしまったら、すかさず報復に出たC.C.に思いっきりギュッと強くわき腹をつねられた。
 本気で悲鳴を上げそうになったルルーシュは、子供たちを起こさぬように、死ぬ気で激痛を耐え忍んだ。
「……おまえという女はっ……」
 痛みにゼイゼイと肩を喘がせながら恨み言を発すると、真っ赤に顔を染めているC.C.は、そ知らぬ様子で視線を外した。
「自業自得だろう?」
 言われて、今度はルルーシュも、素直に白旗を投げ出した。
「ああ、そうだとも。――ロロも、ナナリーも、意外に淋しがり屋で不器用なのは、俺たち二人譲りだ。少しは懲りて、俺も以後は配慮を心掛けるさ」
 そんな自分たちが、初めて産んで育てているにしては、正直『出来すぎだ』と感じるくらいに、まっすぐで伸びやかな子供に成長している。
 昔からC.C.は、「私はやれば出来る子なんだぞ?」と口癖のように言っていたが。実際に、本気でやる気になれば、大工仕事から家事全般まで、大概のことは何でもこなせてしまう良く出来た嫁でもあった。
 それを素直に口にして褒められないのは、ルルーシュ自身の不器用なところで。感謝の意味を込めてC.C.の耳朶にキスを落とすと、くすぐったそうに肩をすくめたC.C.が、すかさず横目で睨んできた。
 ルルーシュは、構わずその唇に、ひととき触れるだけのキスを落とした。
「――それで? おまえはアレで満足だったのか?」
 わざと羞恥を煽るような言い方をしてしまうのは、抱いてる最中に泣きながら「もっと」と縋り付いてくるC.C.があんまり可愛くて、久しぶりに我を忘れて激しく抱いてしまった自覚がルルーシュのほうにもあってしまうからだが。
 しばらく無言で睨み返していたC.C.は、そのまま何も言わずに、ひたいをギュッとルルーシュの胸元に押し付けた。
「うん?」
 一度は、止まってしまった心臓の音。
 そして今は、コードの力で二度とは止まらなくなってしまった胸の鼓動。
 その心音を確かめながら、眠るのがC.C.は好きだった。
 察したルルーシュが優しい声で促すと、C.C.は辛うじて耳に届くくらいの小さな声で囁いた。
「……このまましばらく……黙ってろ」

 ――私が眠ってしまうまで。

「了解」
 声には出せなかった部分に、ひときわこそばゆさを感じたルルーシュは、おとなしくC.C.の後ろ髪を撫ぜ始めた。
 結婚して、子供を作って、産んで育てて。
 それでもまだ変えられないC.C.の頑なさ。
 そんな部分すら、今のルルーシュには愛しくてたまらないと思えてしまう。
 案外親も、子供と一緒に育っていくものだぞ? とは、双子が産まれた日にC.C.に言われたセリフだったが、C.C.もある意味、頑なであり続けることで、ルルーシュの目には成長しているように映ってしまうのだ。
 頑なな自分さえ、ルルーシュが受け止めてくれることを知っているから、意識的に甘えているのだ。

 ――言えば、おまえは決して認めようとしないだろうがな。

 しかし、頑なな彼女が言わせた強がりの文句を、忙しさにかまけて聞き流していた自分は、たしかに失敗だったとルルーシュは反省する。

 ――俺もまだまだ青いということか…。

 考えて、ふたたびルルーシュの唇を形作ったのは、幸福感がさせる苦笑いだった。
 自分が少し構ってやらないだけで、淋しいと拗ねてしまう家族が三人もいるのだ。
 身近に自分を愛してくれる人のいてくれる心地好さ。
 それを意識するほどに、どうしようもなく笑いがこみ上げて我慢しようもなかったが。
 しばらく呆れていたC.C.も、そのうち襲いくる疲れと安堵には抗い切れずに、静かな寝息を立て始めた。
 最近は明け方に数時間だけ同衾する生活を続けていたから、おそらく安心したのだろう。
 ややあって、覗いてみた彼女の寝顔が、心底安らいでいるのを確認して、ルルーシュは抱きしめ直した腕の中で小さく囁いた。

「……愛しているぞ、C.C.……」

 おまえを、おまえたちを、おまえたちの生きているこの世界を。
 ひいては、自分の作り出した『やさしい世界を』。
 何の見返りもなく、心底愛していると断言するに足る実感を、これ以上もなく手中に収められている。
 ああ、やっぱり、あのとき俺の下した結論は、間違いではなかったのだな、と。
 ルルーシュは、自分も眠りに落ちてゆく傍らで微笑みながら、数多の思いを噛み締めた。



[ ende ]



気分転換のはずが、長くなってしまった…!
昔から番外編を書くのが大好きですが、
「永遠の祝祭」は自分的にモエ設定が満載なので、書きたい番外編も満載です。
がんばれ、自分。
なにはともあれ、突発SSばかりで恐縮ですが!
ありがとうございました!