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TURN 22.0125 「午後のひととき」 

同じ話を、延々三ヶ月間もこねくり回しているもので、
そろそろマジ泣きしつつあったりして。
(*´ェ`*)


とゆーわけで、恒例の気分転換。
かなり雰囲気だけのSSですが、
良かったらどうぞ~♪


携帯やmacな方はコチラから。

それ以外の方は、下からどうぞ。





 冬の陽射しが温容に、皇帝専用の休憩室の飾り窓越しに差し込んでいる。
 変わりのない多忙に明け暮れている日々ではあるけれど、意識的に精神的な休息を必要としたルルーシュは、軽く吐息しながら窓際のソファに身体を横たえると、持参していたペーパーバックの栞を解いた。
 内容は、W.S.モームの短編集だ。
 特に愛好しているわけでもなかったが、他愛無い日常に起こった些細な出来事を、いささかシニカルに描いてある単調な文章には、思考するのに疲れた脳細胞を心地好く癒す効果に富んでいた。
 それほど込み入った内容でないのを良いことに、頭の片隅では別なことを考えながら文字の羅列を読み流す作業に打ち込むうちに、ふいにルルーシュは、傍らに人の気配のあるのに気付いた。
「何だ?」
 薄いガラス窓の向こうから小鳥のさえずりが聞こえる以外は、無音に近いような静かな空間。
 ページを繰る音をパラリと響かせながら、ルルーシュが目線も向けずに訊ねると、相手のほうからも、まるきり言葉を惜しんでいるような短い返事だけが返された。
「邪魔だ」
「何が?」
「おまえの足」
 言われてルルーシュは素直に自分の姿に目線を落とすと、たしかに三人掛けのソファをひとりで占領しているのに気付いた。
「別の場所に座ればいいだろう?」
 言いながら、それでもあっさり場所を融通してやったのは、下手をすると「おまえがあっちへ行け」と強引に追い出しかねない相手であるのを知っているからだ。
 ほとんど無意識に気のない動きで、片方の足だけ床の上に下ろすと、もう片方を邪魔にならない場所まで折り曲げた。
 すかさずC.C.は、ルルーシュの立て膝をクッション代わりに酷使できる場所に、ドサリと音を鳴らして腰を下ろしてきた。
 それにはルルーシュも、思わずムッと顔を顰めながら苦言を呈した。
「ほこりが立つだろう? もう少し女らしく振る舞えないのか」
 何が可笑しいのか知らないが、C.C.はクスクスと喉を鳴らして笑っている。
「女らしいのが好みか?」
「別に?」
「言っていることが支離滅裂だな」
「ああ、見てのとおり読書中だからな」
 結局そのまま、その場所に落ち着いてしまったC.C.は、興味深げにルルーシュの手元を覗き込みながら訊ねた。
「何を読んでる?」
 ルルーシュは、やっぱり視線も返さない。
「見ればわかるだろう?」
「私の本を勝手に読んでる奴が、えらそうに言うな」
「正確には、ジェレミアの本棚から勝手に拝借してきた本だがな。いつからおまえの本になったんだ?」
「前にあの男が、好きに読んでいいと言ったんだ。退屈な本ばかりだがな」
「難しい本が好みなら、ロイドもあれで結構な読書家だぞ?」
「ああ、ジャンルが多岐にわたり過ぎていて、一体どういう了見で集めているのか逆に疑問に思ったが。アレはなかなか面白かった」
「フン、暇人め。とうの昔に攻略済みか」
「おまえの命令で、仕方なく暇人に甘んじてやっているんだ。ところで、どこまで読み進んだ?」
「今、主役の男が、ある芸術家の屋敷に訪ねて行っている最中だ」
「ああ、あの話か。オチがなかなか、おまえみたいで笑ったぞ?」
「言うな、馬鹿。読んでいる最中だ」
「だったら、早く読め。――それより、ルルーシュ? 忘れないうちにスザクから伝言だ。ジェレミアの到着が予定より遅れるから、自分達は先に試運転のほうを片付けたいのだそうだ」
「知ってる。さっき通りすがりにロイドを見かけた」
「何だそれは? スキップでもしていたか?」
「セシルと一緒に、いつもより三割増し歩くスピードが速かったからな。奴らの言動に慣れていれば、誰でも容易に想像がつけられる」
 そっけなく言うなり、ルルーシュは唐突にバタンと音を鳴らして本を閉ざしてしまった。
 そして、眉間に皺を刻みながら言ったものだ。
「俺は、こんなに間抜けな男ではない」
「そうか? 案外そのままだと思うがな」
 そのとき初めてC.C.の格好に気付いたルルーシュは、そのまましばらく呆気に取られた様子で口を閉ざした。
 C.C.は、そんなルルーシュを横目に流し見ながら、耳の上を飾った小さな羽根飾りを思わせぶりに指で弾いた。
「どうだ? なかなか似合うだろう?」
 ルルーシュは愕然と、眉間の皺を量産しながら呟いた。
「―――どうして、そんなに大きく胸元が開いているんだ?」
 つい一時間ほど前まで、いつもの拘束衣姿でゴロゴロ退屈を持て余していたC.C.は、ルルーシュの執務室を訪ねて来た女官たちに連れられて、しばらく姿を消していた。
 時期的なことを考えても、おそらく作らせておいたドレスが完成したのだろうと予想して、忙しさにかまけているうちに、今まですっかり忘れていたのだが。
 たしか俺の考えたデザインでは――と怪訝そうに呟く様子に、C.C.は初めて気付いたような仕草で、自分の胸元に視線を落した。
「ああ、これか。おそらく誰かの命令で、女官たちが気を利かせたのだろうさ。対面上、私は独り身の皇帝を慰める立場にあるからな」
 とっさに意味の理解できなかったルルーシュは、怪訝そうに眉間に皺を刻んだ。
「だからと言って、どうしてそんな部分の布を節約する必要があるんだ?」
「さァな、私はむしろ、おまえの反応を問い質したい気分だが?」
 さすがの私も、返答次第では容赦しないが? とソファに腰を下ろしたまま、両手を腰に大威張りで胸を張るC.C.の姿に、ルルーシュはさんざん思案した後で感想をポツリと口にした。
「まァ、馬子にも衣装だな。もっとも、俺のデザインなら…って、いてッ」
「せっかく一番に見せに来てやったのに、言うに事欠いてそれか!」
「人の頭を殴るな!」
 と、ほとんど条件反射で返したまでは良かったが、ルルーシュはふいに眉をひそめながら訊ねた。
「……ひょっとして、他にも誰か見せて回るつもりか?」
「いけないか?」
 きょとんと目を瞠る女の様子に、ルルーシュは思い切り憮然と顔を顰めた。
 仮にも自分の口で、「独り身の皇帝を慰める立場」を認めておきながら、ソレ用にデザインされたドレスを嬉しげに見せて回る女の心理が理解できない。
 が、その気持ちを無難に言い表す言葉が見つからなくて。内心で舌打ちしながら視線を逸らすと、ふとC.C.の肩口が血で汚れているのに気付いた。
「おいまさか、その格好で喧嘩でもしてきたのか?」
「はァ?」
 驚きながら、示された場所に視線を落としたC.C.は、すぐにも思い出した様子で吹き出した。
「バカ、違う。おまえが勝手に執務室から姿を消しているから、仕方なくこっちに向かっている最中に、木の上からアーサーが降ってきたんだ」
「アーサーが?」
「そうとも。飾りの部分が、どうやら気に入りの様子でな。ときどきスザクも同じように襲われているぞ?」
 ルルーシュは内心で、『スザクには厳重抗議だな』と呟きながら、純白の皇帝服のポケットから取り出したハンカチを軽く唾液で湿らせて、既に止血して乾いてしまっている肩口の血を拭い落とした。
 おそらく肩の上で一度着地して、驚いたC.C.の動きに合わせて傷の面積が広がってしまったのだろう。小枝で引っかいたような傷跡は、薄く滲んでいた血痕さえ綺麗に拭い去ってしまえば、後には毛筋の傷跡すらも残っていなかった。
 ただでさえ傷の回復スピードが常人離れしている彼女のことだ。これしきの傷など本人にはなんともない様子だったが、なんとなく以前の不手際を思い出してしまったルルーシュは、C.C.の左手をそっと掴むと、しばらく何も言わずに記憶の場所を観察した。
「……何の真似だ?」
 ややあって訊ねたのは、C.C.が無言でルルーシュの頭をヨシヨシと撫でてきたからだ。
「おまえが、らしくない真似をするからだ。それとも、こっちのほうが良かったか?」
 言うなり、強引にルルーシュの首の後ろに手を回して、胸元まで抱き寄せてしまったC.C.は、まるきり子供にするようにルルーシュの頭を腕の中に抱きしめた。
 もちろん子供ではないのだから、一連の行為自体に不満のあったルルーシュは、「保護者ヅラをするな」とまたいつものように反論しようとしたのだが、デコルテの部分が大きく露出しているドレスの胸元に鼻先を押し付けられている格好では、何を言ってもサマにならないことに思い至り、そのまま無言でC.C.の身体を押し離した。
「――ん?」
 しかしその際、目線の位置の加減で、乳房と脇の下の境目にポツリと薄い影のようなものを見つけたルルーシュは、『アーサーは、一体どれだけ暴れたんだ?』と思わず目を凝らしたが、それは傷ではなくホクロが完成する寸前で時間を止めてしまった、ごくごく小さなシミだった。
 ルルーシュの様子でそれを察したC.C.は、自分もその位置を覗き込みながら、苦笑混じりに心配性の男をからかう。
「何だ、ホクロが珍しいのか?」
「別に? ……単に、初めて見つけたので感心しただけだ」
「感心? ならついでに、背中のホクロも見せてやろうか?」
「――要らん!」
 というよりも、「どうしてそんな場所にあるホクロを、自分で知っているんだ?」と、疑問に感じたままを問い返すと、クスクス笑い出してしまっているC.C.は、
「どこにもホクロが見当たらないといって、以前マリアンヌに押し倒された経験があるだけだ。息子のおまえなら、特別に許可してやるからありがたく思え」
 言うなり、さっさとうなじの部分で長い髪をかき上げながら、既にルルーシュに背中を向けてしまっている。
 どうして俺が――と内心では愚痴を呟きながらも、その昔、母親が見つけたのだというホクロの位置には、逆らいがたいような魅力を感じた。
 仕方なく、そっけない手付きでC.C.の背中に手を伸ばしたルルーシュは、『捜す』という名目に従って、遠慮なく背中のファスナーを10センチほど引き下ろした。
 しかし、見える範囲に目当てのものが見付からないものだから、そのうち意地も手伝って同じ行為を三度ばかり繰り返して、ようやく腰骨に近い背骨の部分に微小なホクロのようなものを見つけた。
「……ああ、これか」
 見つけた安堵にホッとしながら思わず呟いてしまったが、それ以外には、本当にシミひとつ見当たらない雪原のような肌だった。
「どんなホクロだ?」
「別に? 普通に小さなホクロがポツンとあるだけだ」
 むしろ、こんなものをよく見つけられたな? と感心しながら呟くと、ルルーシュが背中のファスナーを元の位置まで戻すのに合わせて、さりげなく服の乱れを直したC.C.は、
「あのときは私も、本気で貞操の危機を心配したぞ?」
 と思い出した記憶にクスクスと喉を鳴らしながら笑った。
 一体、どういう付き合い方をしていたんだ? とルルーシュは疑問に思ったが、それを問いただすより先に、思わぬところから邪魔が入ったので驚いた。
「むしろ僕はキミたちの反応に、呆れて声も出ない気分なんだけどね?」
「―――スザクッ?!」
「何だ、いつから居た?」
 別に見られて困る真似など一切していないと知りつつも、条件反射で焦るルルーシュとは対照的に、平然と訊ねるC.C.に向かって、ほとんど扉の影に姿を隠していたスザクも平然と姿を現しながら答える。
「えっと、『馬子にも衣装だな』って、ルルーシュが答えて殴られたところから?」
「~~~おまっ」
 だったら、その段階で声を掛けろッ! と憤るルルーシュを軽く無視して、スザクは続けた。
「というよりも、『背中のホクロも見せてやろうか?』ってものすごーく直球な誘い方だと思うんだけどね、僕は。ルルーシュって、あそこでファスナーを上げられちゃう人なんだ? てっきり出歯亀になる覚悟をしたのに、心配して損したよ」
「………はァ?」
 何を言っているのか理解できないルルーシュの隣りで、C.C.がクスリと愉しげに微笑んだ。
「コイツにそんな甲斐性があるものか」
「おい、何の話だ?」
「ハイハイ、邪魔者は退散しますよ」
 結局、部屋の中には半歩だけ踏み込んだ形のスザクは、言うなり本気で扉を閉ざしてしまった。
 しかし、きっかり一秒後に扉を開けたスザクは、
「たびたび変更して悪いけど、午後から予定していた会議は、明朝早くまで延期したからね、よろしく」
 と、今度はわざとらしく扉の影から用件だけを伝えてきた。
 要するに、自分の与り知らないところで、残りの仕事の一切が明朝まで延期になってしまったわけだから、ルルーシュも、さすがに焦った。
「しかし、それでは後の予定が!」
「だったら、鶴の一声でロイドさんを止めてくれる? セシルさんも一緒になって、目の色を変えてしまってるけどね」
「~~~…ッ…」
 思わず歯噛みするルルーシュの隣りで、やはりC.C.は呑気にクスクスと笑った。
「いいから、連中がおまえを連れ戻しに来る前に、持ち場に戻れ。そのために、こっちには私が派遣されているんだ」
「うん、わかった。――そうそう、C.C.?」
 新しいドレス、よく似合ってるね。綺麗だよ。と歯の浮くようなセリフを残して、スザクは急ぎ足で持ち場に戻った。
 ひとり取り残された形のルルーシュは、返す刀で横目にC.C.を睨んだ。
「―――派遣?」
 しかし、そんなルルーシュには慣れているC.C.は、構わず鷹揚に足を組んでルルーシュと向かい合うと、クスクスと妙に色っぽい表情で含み笑った。
「連中なりに、おまえの身体を心配しているのさ。私が言うのも何だが、最近のおまえは働きすぎだ」
「だからといって、どうしておまえが俺のところに派遣されて来るんだ?」
 淡々と脅しつけるようにして訊ねると、C.C.はクスリと鼻を鳴らしながら、思わせぶりにうなじの髪をかき上げた。
「たとえば今のタイミングで、私が全裸でおまえを訪ねて来たらどうした?」
 露骨に言われて苦虫を噛み潰したルルーシュは、ようやく話の道筋が見えた様子で傲慢に鼻を鳴らした。
「――何だ、そういう話か」
 ヘソで茶を沸かすといった態度で言うなり、そっけなく背中を向けてしまったルルーシュは、そのままゴロリと怠惰に寝転んだ。
 C.C.が訪れる直前と、ちょうど上下の位置を入れ替えた形だが、唯一違うのはC.C.の膝を強制的に枕にしていることだ。
 C.C.は若干驚きの表情を浮かべながら、しばらくルルーシュの表情を覗いたが、何食わぬ顔つきで既に読書を始めている男の姿を眺めるうちに、納得するものがあったのだろう。
「おまえは本当に、負けるのが嫌いだなァ」
 クスクスと呆れ半分で苦笑を洩らす女の反応に、ルルーシュは気にした様子もなく平然と受けて流した。
「要するに、今のおまえは貢ぎ物なんだろう? だったら、一日くらいは文句を言わずに働け」
「フン、そして明日の朝には、せいぜい気だるげにアクビの一つも洩らしながら過ごしていればいいのか?」
「演技の必要があるのか? どうせ毎朝見慣れた光景だろう」
「まったく…。実際は、この程度の関係とも知らずになァ、よくよく連中も余計な気を回せるものだ」
 客観的には、たしかに文句なく女らしさを強調してあるドレスの胸元を眺めながら、しみじみ呆れた口調で言うC.C.を、ルルーシュはふいに視線を上げると何も言わずにじっと見つめて。
 窓から差し込む太陽光線に、紫水晶(アメジスト)色の瞳を思わせぶりに光らせながら、人の悪い表情で微笑んだ。
「本当になァ、実際は、この程度(ヽヽヽヽ)の関係とは誰も知らずに」
 先に自分が言ったセリフとは微妙に違うニュアンスで重ねて言われて、とっさに言葉の意味を図りかねたC.C.は、思わずしみじみルルーシュの顔を覗き込んでしまったが。
 その頃には、やっぱり何食わぬ顔つきで既に読書を始めている男の姿を眺めるうちに、なぜだか知らず笑えてしまった。
 ルルーシュの顔の輪郭に被さる黒髪に、さりげなく指の先を絡ませながら訊ねた。
「ところで、どの話まで読み進んだ?」
 ルルーシュは答える。淡々と。
「今ちょうど主人公の男が、旅先のスペインで医者を」
「あ、駄目だ、言うな! 私はまだそこまで読んでない!」
「おまえ、異様に読むのが遅くないか?」
「当然だろう? 一晩に読むのは一話だけだと決めているんだ」
「ふぅん?」
 気のない返事を寄越したルルーシュは、それから4、5分ほどで残り全部を読んでしまうと、バタンと閉じた本を手渡しながら、「しばらく寝る」とアクビ混じりに呟いた。
 C.C.も、さすがに呆気に取られながら男の顔を覗き込んだが、その頃には、とっくにルルーシュは寝息を立てていた。
 なんとなく手慰みにルルーシュのひたいに被さる髪を掻き分けていたC.C.は、一瞬眠りの邪魔になるかと躊躇してしまったが、ほとんどルルーシュのトレードマークでもある眉間の皺が確認されなかったので、そのままペタペタと満足するまでルルーシュの顔の輪郭を触って愉しんで。
 仕方なく、ルルーシュが目覚めるまでの時間潰しに、本の続きを読み始めた。




[ ende ]