FC2ブログ
【2019年11月】 10月≪ 123456789101112131415161718192021222324252627282930≫12月

キス色百景 SCENE.001 『くすんだオリーブの常緑』 

2,000文字程度で、キスに関するシチュエーションを集めてみたいな短編集。


のっけから甘味が皆無になってしまった…ッ!


良かったらどうぞ~♪
(*´ェ`*)



携帯やmacな方はコチラから。

それ以外の方は、下からどうぞ。




キス色百景
* SCENE.001 : くすんだオリーブの常緑 *

 老若男女数多の人種が入り混じり、せせこましい喧騒で賑わっている繁華街。
 その片隅に設けてある雛菊の花壇に少女はひとり腰を下ろしていた。
 人形めいた美貌の少女が無防備に暇を持て余している姿に、先程からナンパな連中が入れ替わり立ち代わり下心満載の猛烈アタックを仕掛けているのだが、少女は微動だにせずそれを黙殺するばかりで。
 業を煮やした連中が、手のひらを返したように荒っぽい手段を講じると、なぜだか決まって相手のほうが昏倒して苦しみ始めるといった、ちょっとした地獄絵図がひそかに繰り広げられていた。
 しばらくして、また次なる犠牲者が少女の至近に歩みを進めたが、少女はそこで初めて表情を動かすと、唇の端にだけ微笑を浮かべて、悪戯な眼差しでチラリと上目遣いに相手の表情を窺った。
「遅いぞ、ルルーシュ? おかげで新記録達成だ」
 苦虫を噛み潰しているルルーシュは、買ってきたばかりのクレープを手渡しながら隣に腰を下ろした。
「だからと言って、ショック・イメージを乱用するなと何度言わせたら気が済むんだ? せっかく厭味なほど口が立つんだから、まずは普通に相手に口で断れ」
「お断りだ」
 C.C.は、さっそくクレープに齧り付く片手間にすげなく答えた。
「まァな、相手がすこしくらい好みのタイプなら? こっちも声くらい聞かせてやるのもやぶさかではないが。今日のはまた、近年まれに見るロクデナシ揃いだったぞ? アレこそ自業自得というんだ」
「へぇ? ――おまえのタイプって?」
「コイツ」
 あんまり可愛くない態度が癪に障って、少しばかりからかってやるつもりで言ったルルーシュの鼻先に、C.C.は遠慮なく人差し指をグイグイ押し付けた。おかげでルルーシュのほうが、いかにも奥ゆかしい感じに恥らって、羞恥に頬を染めながら、「指をさすな」とぶっきらぼうに顔を背ける羽目に陥った。
 ご満悦げにクスクス笑いを転がすC.C.は、じきにショコラバナーヌ仕立てのクレープを食べ切ってしまうと、問答無用でルルーシュが飲んでいる最中のカフェラテを強奪して、二口飲んで、またそっけなくルルーシュの手元に返した。
 ルルーシュは再びムッと顔を顰めると、ストローの飲み口に付着したピンクの口紅を親指の腹で拭い去り、そのまま何事もなかった様子でストローを口に咥えた。
「なァ、ルルーシュ?」
「何だ?」
 行き交う車の吐き出す排気ガス。街中に溢れ返っているけたたましい騒音。趣味の音楽で耳をふさいでいる人々は、いかにも我関せずといった様子で足早に個人の人生に歩みを進めてゆく。
 両腕で膝を抱え込んでいるC.C.は、見るからにうんざりしている様子で大きな溜息を吐き出した。
「これが――こんな世界が、おまえの望んだ『優しい世界』か?」
 ―――ゼロ・レクイエムから200年。
 とっくの昔に、悪逆皇帝の姿を直接的に知る者たちは死に絶えて、その曾孫に当たる世代が200年前と同じような愚直な歴史をくりかえしている。
 飢餓、病気、汚職、腐敗、差別、くりかえされる憎しみの連鎖――愚かなイタチごっこだ。
「それでも戦争だけは、辛うじて歯止めが掛かっているだろう?」
「ああ、本当に辛うじて、な」
 嘲笑まじりに問うルルーシュの表情を、C.C.は即座に辛辣な目つきで睨み返したが、ルルーシュはフンと肩をすくめるだけで、まともに相手をしなかった。
「別に構う必要もないだろう? 好きにさせておけばいいんだ、いまさら俺の知ったことではない」
「呆れた男だな、以前はあれほど『優しい世界』にこだわって。直接的に縁の深かった連中が、とっくに死に絶えてしまったから、興味を失くしたとでも言うつもりか?」
「そうだな。当たらずといえども遠からずだ」
「――ルルーシュ」
「何だ、妙にこだわるな?」
 露骨に冷やかす口調で言って腰を上げたルルーシュは、その際さりげなくC.C.のひたいに唇を寄せていた。
 今はもう誰もその存在を知ることの無くなった、コードの紋章の刻まれているひたいの上に。
 空になった容器を捨てに行くついでに、そっけなく歩みを進める男の背中を茫然と見送りながら、C.C.は突然ハッとした様子で、足早にルルーシュの背中に追いついた。
「――ひょっとして、おまえ!」
「ノーコメントだ」
 飄々と笑うばかりでルルーシュは相手をしなかったが、ややあって憤るC.C.の本気ぐあいを察して、仕方なく肩をすくめる調子で口を開いた。
「最初にシナリオを用意したのは俺だがな。最終的に通用するレベルまで精度を高めたのはシュナイゼルだ。万が一の場合には、最終手段を仕込んでいるのは事実だが、それでもまだ戦争に頼るような世界なら、いっそのこと滅んでしまえばいいんだ」
 春の麗らかさを思わせる温和な表情で微笑みながらルルーシュはそう言うが、瞳の奥が笑ってないことにC.C.はすぐに気づいた。
 ルルーシュの言う『最終手段』が何を意味するのか、C.C.には察することは出来なかったが、しばらく逡巡した後に、ためらいがちに質問を発した。
「―――……その場合、世界には、おまえと私だけしか居なくなってしまうぞ?」
「それは困る」
 ルルーシュは、せいぜい物々しい口調でそう断言した。
「だからこそ、今の連中には頑張って貰うしかないだろう? その願いを叶えるためになら、俺は一度だって信じたこともない神にさえ祈りを捧げるさ」
 いかにも深刻な口調でそう言って、悲壮感さえ漂わせながら真剣に頷いて見せるのだが、今度は逆にC.C.のほうが、とても相手をする気になれなかった。
「フン、余裕の顔をして。さてはおまえ、ほかにも何かとんでもない爆弾を仕込んでいるな?」
「ノーコメントだ」
「――まったく。どれだけ息の長い計画なんだ、『ゼロ・レクイエム』は。呆れ果てて言葉も出ないぞ、恐怖の大魔王様?」
「フン、どっちが。たかがナンパ目的で近づいてくる連中に、ショック・イメージを乱用するような悪辣魔女に言われる筋合いは無い」
「可愛いものじゃないか。ちょっとしたトラウマが、ほんの数ヶ月ほど尾を引く程度だぞ?」
「馬鹿が、少しは手加減してやれ」
「お断りだ」
 人知れず物騒な会話を交し合う魔王と魔女の姿は、やがて雑踏にまぎれて消えてしまった。

[ ende ]
――愛しい貴女(あなた)の居なくなった『優しい世界』。今でもまだ『他人に』優しい世界でしょうか?