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大佐の奥方・母親 

大佐の奥方・母親
著者:サマセット・モーム
発行:1951

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モームの戦後の短編集「環境の産物(動物)」から選ばれた5篇。
このときモーム73歳。
本当に、小説を書くために生まれてきた人の如く、ますますもって筆致の巧みが冴えまくりです。

【大佐の奥方】
奥さんが詩集を出してヒットして、主人である大佐はある頃から「あの有名な本を書いた作者のご主人」呼ばわりされるだけでも癪に障るのに、よりにもよってその詩集の内容から奥さんの浮気疑惑が浮上してしまう。
けど、あくまで疑惑であって証拠のひとつも存在しないだけに奥さんに詰め寄ることもできなくて、仕方なく友人相手に憤懣を爆破させる旦那さん。
しかし、オチで彼の言う言葉が非常に抜け目がなくてシャレているのであります。
(笑った。)

【根なし草】
マラリアに犯されてしまった白人が、ボルネオで出会った白人一家のところでちょっと怖い思いをする話。
今のご時勢だとぜったい通用しない設定だと思われますが、でも登場人物を一昔前の日本人に置き換えても充分通用するのではないかしら?
旦那からの締め付けにより精神症を発症してしまう奥さんだが、もしも旦那さんが今でも奥さんを想っているのだとしたら、むしろ悪いのは奥さんのほうだということになる。
たまらなく切ない話だ。

【幸福な夫婦】
モームが描くところ代表的な知的階級のインテリ。
ロンドン高等刑事裁判所の判事・ランドンを最初は「嫌なヤツ」だと大嫌いになり、最後は「大好き!」と高感度のジェットコースター気分を味わえてしまう一作。
こーゆークセのある人物が大好きだ。

【対面】
スペインの劇作家カルデロン著「名誉を重んずる医者(エル・メディコ・デ・ス・ホンラ)」の内容を小出しに取り上げながら進展してゆく物語。
むしろ読後はその話を読みたくなってしまいました。
スペインの季節と空気と日差しと風景がとても美しい文章でリアルに書き連ねてあります。
(現地に行ったことがなくてもなんとなく匂いまで感じられてしまうぐらい)

【母親】
この話もスペインが舞台です。
息子を溺愛している母親がメインの登場人物なんですが、読後に爽快感を味わうか、どっぷりイヤ~な気分を味わうかはハッキリ読者の体験次第。
最後の一行の母親の捨て台詞を「イカス!」とは思いましたが、それより以上にゾッとしました。
(でもたいへん興味深い一作でありました)

サナトリウム・五十女 

サナトリウム・五十女
著者:サマセット・モーム
発行1951

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モームの戦後の短編集「環境の産物(動物)」から選ばれた5篇。
英宝社刊の「凧・冬の船旅」でコンプリートらしいので、是非ともその一冊も集めたい。

【仮称と真実】
「さるイギリスの大学で、フランス文学を講じているある教授から聞いた話」をとある自分が一人称で語ってゆく話。
しかし、その設定に懲りすぎていて、肝心の内容がちょいと不鮮明になってしまった感があり。
その設定をなくして単に「政界人が若い情人を囲う話」だったとしたら、もっと普通に愉しめただろうと思う。

【五十女】
持参金の少ない女性と、頼りのない若者と、その実父を交えた三角関係。
それを五十路を迎えた女性と再会したところより顧みる。
松本清張が書きそうなエピソードなんですが、オチがいかにもモームらしい。
息を詰めなくても読めるので、むしろこれくらいのドロドロ加減が好みです。

【思いがけぬ出来事】
設定は「大佐の奥方」に少し似ているような。
しかし、読後の感想はまったく違います。
モームの書く恋愛は非常に切ない。自分の全てを投げ打って、まさに全力で相手を恋する。
けど、相手は実に理知的に、現実的にそれに対処する。
第三者から見ればある意味仕方ないやり方なのかもしれないけど、あまりに現実的過ぎて残酷なだけに、今現在切ない恋の渦中にいる人は、なるべくモームは読んではいけないと思う。
(やりきれなさに胸がつぶれて、涙が止まらなくなってしまいますよ。たぶん)
―――と、思わずうっかり昔した自分の恋に切ない想いを巡らせてしまった一作。

【ロマンチックな令嬢】
身分違いの恋に陥った二人、その二人の命運を握る伯爵夫人が下したある決断。
かなり要約すると「ロミオとジュリエット」みたいな設定ですかな。
(公爵夫人の娘がジュリエット、伯爵夫人の御者の青年がロミオ(かなり無理矢理)
むしろドロドロしているのは伯爵夫人と公爵夫人のほうなんですが、なんとなく登場人物のイメージは森薫さんの「エマ」を彷彿としてしまいました。
設定といい、オチといい、よくよくありがちな話なんですが、ものっそい読後が爽快な一作でありました。

【グラスゴウ生まれの男】
正直勘弁して欲しい。
語り部が「白状しよう、その晩は僕もぐっすりとは眠れなかったと」というので終わるのですが、読んでいるこっちまでトイレに一人いで行けなくなってしまうホラー。
(深夜に流れるホラー映画のCMでもダメなので余計に)
読後は「コワイ~~~、もうメッチャ怖い~~~~」と笑いながら無理矢理気分を盛り上げる必要に駆られました。
(今でもマジでこの一作だけホッチキス止めしてやりたくなります…(怖すぎる)

【サナトリウム】
実体験として大戦中、ロシアに諜報部員として派遣されていた以後に胸を悪くしてサナトリウムの世話になっていたことのあるモーム。
それだけに病院の雰囲気と空気が非常にリアル。
けれども、読後のふんわり感はなんとも果てしなく癒されました。
(グラスゴウ~を読んだ直後だから余計かもしれないけど)

「結婚しなければ2~3年、結婚すれば3ヶ月」と余命を告げられるのに、それでも喜んで結婚する決意を固める二人。
片や、自分だけ病気を患っていることで、それまで愛し続けていた細君を屈辱的な言動で傷つけてしまう男。
むしろ後者の気持ちに感情移入してしまいましたが、いずれにせよ「こんなふうな恋愛ができたらなァ~」と羨ましくなってしまう一作です。

それにつけても、七十路を超えてもなお、こーゆーロマンティシストでいられたモームの不思議。
「人間の鎖」が41歳の時の作品なので、その倍は生きた後に書かれた「回想」を読んだらその謎の部分も理解できるのかな?
(できれば近い将来、モーム作品コンプリートを目指したいです)

説きふせられて 

説きふせられて改版
著者: ジェーン・オースティン /富田彬
出版社: 岩波書店
サイズ: 文庫
ページ数: 409p
発行年月: 1998年10月

【内容情報】(「BOOK」データベースより)
愛しながらも周囲に説得されて婚約者と別れたアン。八年の後、思いがけない出会いが彼女を待ち受けていた…興趣ゆたかな南イングランドの自然を舞台に、人生の移ろいと繊細な心のゆらぎがしみじみと描かれる。オースティン最後の作品。
「高慢と偏見」でもお馴染みの富田彬さんによる訳だったんですが、これが意外なほど目に馴染まなくて、ストーリー的にも平坦な100ページ付近まで読み進めるのが大変でした。
「高慢と偏見」、「エマ」「マンスフィールド・パーク」を読んだときには、一度ページを開いてしまったが最後、本を手放す気になれなくて、寝食を忘れて最後まで読み耽ってしまったものですが、主人公のふたりが既に一度は恋人で、それが破綻したところから始まっているところが影響していたのかもしれません。

相思相愛の関係でありながら、身内の人間から強く身分の差を指摘され、泣く泣く婚姻関係を破綻させてしまったアン。
8年後、ふたりは再開を果たすわけですが、彼女に振られた立場にあるウェントワース大佐は、そのことを強く根に持っていた。
この人がまた「元祖ツンデレ」なんじゃないかと思うほどに、とにかくアンに対して辛辣で。
「(8年前と比べて)見る影もなくなった」みたいなことを言ってみたり、彼女の目の前でわざと別の若い女性と仲良くして見せたりと、かなりの狭量ぶりを爆発。
しかし、「以前の自分が悪いのだ」と、ひたすらにじっと耐え忍んでいるアン。
自分のほうから断りを言って別れたものの、結局はウェントワース大佐以上に心惹かれる相手に出会うことができなくて、別の人からプロポーズを受けても、アンはずっと独り身を貫き通していた。
そんな彼女の魅力にウェントワース大佐が再び開眼し、次第に心を奪われてゆく様子の描き方がやはり秀逸なのです。
ジェーン・オースティンの小説の魅力的な武器のひとつとして「手紙」がたびたび出てくるわけですが、このお話の中でも、それはもう効果的に手紙がふたりの関係を近づけます。

たちまちアンの心に名状し難い激変が起こった。
読み難い字で「A・E―――様」と宛名を書いたその手紙は、さっきあの人が大急ぎで畳んでいたあれに違いない。
ベンウィック大佐に書いているものとばかり思っていたら、自分にも書いていたのだ!
この世が自分のために尽くしてくれる一切は、一にこの手紙の中身にかかっているのだ。
どっちつかずでいるくらいなら、何でも起こるがいい、どんなことだって平気である。
マスグローヴ老婦人は自分の卓で、何かちょっとした準備をしていた。それをいいことにして彼女は、さっきまで彼の占めていた椅子に深々と腰を下ろし、彼がこごんで手紙を書いていた場所を受け継いで、次のような言葉を貪るように読んでいった。

どっちつかずでいるくらいなら、何でも起こるがいい、どんなことだって平気である。というフレーズに思わず唸ってしまいました。
8年間と言う歳月を、ひたすら忍耐と寂しさだけに費やしつくした日々。
冷静で、いつだって自分を忘れない、このアンと言う女性の内面の激しさに驚き、そしてまた、ここからウェントワース大佐の「全面降伏の手紙」とも言うべき赤裸々な告白が繰り広げられるわけですが、あまりに全てを投げ出して、文章という形の心の吐露で彼女に体当たりを打ちかましてくれるものですから、読んでいるコッチのほうまで思わずクラクラと眩暈を覚えます。
しかも、さんざん恨み言と恋情のごった煮を吐き出してくれた後で、

僕は自分の運命がどうなるかを確かめずに、去らねばならないけれど、しかしできるだけ早く、ここへ戻ってくるか、あなた方の後をつけるかするでしょう。
何か一言言葉をかけてくださるか、目付きで知らせていただけば、それで僕は今夜あなたのお父様のお宅の敷居を跨ぐか跨がないかを決めます。

―――って、もう本当にどんだけ!!
それまでの強気な態度は何だったのかと!
そのクセ、この期に及んでいきなり、どんだけ潔い男かと!
(その寸前まで少しも素直に振舞ったりしてないクセに!)

しかし、それでいて、「目付きで知らせてくれ」というあたりが、一度は恋人関係であった二人ならではのやり取りですよね~。
もちろん当事者であるアンも、とてもじゃないけど冷静に自分を保つことができなくて、なんとかして無難に訪問先から帰宅するために、アレコレ苦しい言い訳を多用して、最終的には「どうにでもなれっ!」とばかりに(なかば破れかぶれになって)仮病まで使ってひとりの時間を手に入れようとするわけですが、このあたりの「幸福の絶頂」と「迫り来る焦燥」の狭間で葛藤してみせるアンの様子が実に可愛らしい限りです。

果たして、ふたりは無事にくっついて結婚に漕ぎ着けるわけですが、欲を言えば終盤のラブラブっぷりにもう少しページを割いて欲しかったかな?
(「高慢と偏見」の中で、ダーシーとエリザベスがくっついた後で、ふたりが交わす砕けた(それでいてラブラブの)会話が大好きなのです。でも、アンはエリザベスよりも随分と(精神的にも)大人なわけですが。)

全体的な物語の盛り上がり的には、やはり前出の3大小説には負けますが、やはりジェーン・オースティンならではの純愛模様が激しく愉しい。
―――もう、何と言ってもウェントワース大佐の葛藤ぶりにモエモエ!です!
一度目も薔薇色の興奮っぷりを味わうことができますが、二度目以降の読み返しも十二分に愉しめてしまう、やっぱりジェーン・オースティン・マジック溢れる実に幸福な一冊でありました。

首領に捧げる子守歌 

首領に捧げる子守歌
著者: 野梨原花南
出版社: 集英社
サイズ: 文庫
発行年月: 2008年06月
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あらすじ
野梨原花南&宮城とおこが贈るファンタジー第4弾!
世界を旅する魔王サルドニュクスと魔法使いのスマート。スマートに刻まれた刻印を消すため、魔王の八翼白金を探すふたり。女がらみのゴタゴタを避けるため、スマートは少女に姿を変えられて…!?

サファイア キター*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!

旧:タロットワーク(現:サルドニュクス)&スマートのコンビが大好きな人にはモエモエの「~捧げる」シリーズ。
正直、前作「僕に捧げる革命論」の宮城とおこさんのイラストで少々テンションが浮上したものの、ちょーシリーズと比べるとイマイチ乗り切れてなかったわけですが、今作では久々に思いっきり直球ストライク。
あのスマートが見た目は8歳の美少女で、中身はもちろんそのまんま。
それを秘かにネチネチと弄り倒してくれるサルドニュクスにモエモエです♪
あと、ところどころで妙に弱気なスマートの心理状態にもモエましたな。

 サルドニュクスはスマートに薄く笑う。
「あなたのそういうところを尊敬してますが、同時に本当に愚かですね」
「ああ。性分でなァ。学習できねぇよ。ま、上手くやるのが面白いことでもねぇから、いいさ」
 負け惜しみにも聞こえそうな言葉を吐いてから、スマートはふと思う。
 そういえばサルドニュクスはここしばらく自分のことを『お師匠様』と呼ばない。先刻一度呼ばれたくらいだ。
 もうそのまま呼ばないでくれればいいと思う。
 今までなにひとつ、何も教えてやることはできなかった。
 サルドニュクスが人間だったころから、今までなにひとつ。
 黒髪で細身の弟子を思い出し、感傷に浸りそうになったが今はそんな場合じゃないと思い返す。
 どっちにしろこんなにちっちゃくてフリフリじゃあ、深刻ぶっても仕方ない。

―――なんてコトを、サルドニュクスの肩の上にチマっと収まりながら考えたりしてるわけです。
そうして終始、どちらかと言えばサルドニュクスの言動に振り回されているスマートの駄目っぷりにモエ。
ついでに、その気がなくてもさらりと魔族をタラシ込んでしまってるサルドニュクスの茫洋っぷりにもモエモエです。

加えて、今回主役であるカップルのティルファとギンガが天然で可愛かったなァ~♥
欲を言ったら、もう少し八翼白金も活躍してくれたら嬉しかったわけですが、一冊で完結し切れてなかったので、次巻に期待ってなところです。

んでもって、まさか再登場してくれるとは思ってなかったサファイアちゃん。
彼以外にも、サルドニュクスとスマートの会話中で、けっこうラボラトームの話とか、ダイヤモンドの話が出てきてくれたのが嬉しかった

しかし、なんといっても、金髪ロンゲで再登場のサファイアちゃん。
ものすごく激しく、次巻の宮城さんのイラストが愉しみです!!

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